所得税・住民税のしくみを完全理解|累進課税・控除・計算順序を実例で解説
給与明細から差し引かれる「所得税」と、翌年6月から請求が来る「住民税」── 名前は知っていても、いくらをどう計算しているか、控除がどう効くか、明確に説明できる方は少数派です。本記事は税金計算が初めての方から、自分の手取りを納得して把握したい方まで、一次資料に沿って一気に整理します。
このページの目次
そもそも所得税・住民税って何?(一気に整理)
所得税と住民税は名前が似ていますが、納め先・税率の決まり方・徴収のタイミングが全く異なります。まずは違いを表で押さえましょう。
| 項目 | 所得税 | 住民税 |
|---|---|---|
| 分類 | 国税 | 地方税(都道府県民税+市町村民税) |
| 税率 | 累進課税(5%〜45%の7段階) | 原則一律10%(道府県民税4%+市町村民税6%) |
| 計算対象期間 | その年の1月〜12月 | 前年の1月〜12月 |
| 徴収方法(給与所得者) | 毎月の給与から源泉徴収+年末調整 | 翌年6月〜翌々年5月の12ヶ月で天引き(特別徴収) |
| 追加負担 | 復興特別所得税(所得税額の2.1%) | 均等割(標準5,000円/年) |
| 納め先 | 国(税務署) | 住んでいる自治体(1月1日時点の住所地) |
大事なポイントは2つ:
- 所得税は「同じ年」、住民税は「翌年」 ── 退職して無職になっても、前年に所得があれば住民税は請求が続きます。
- 所得税は累進(高所得ほど税率UP)、住民税はほぼ一律10% ── 低所得層の負担感は住民税の方が大きくなりがちです。
課税所得の計算順序を分解する
所得税・住民税の計算で最も大切な前提が、「税率を掛ける前に差し引くもの(所得控除)」と「税率を掛けた後に差し引くもの(税額控除)」の順序です。この順序を覚えてしまえば、税金計算は怖くなくなります。
給与所得者の場合
↓ −給与所得控除(額面の一定割合)
(2)給与所得
↓ −所得控除(基礎控除・社会保険料控除・配偶者控除など)
(3)課税所得(千円未満切捨て)
↓ ×所得税率
(4)所得税額
↓ −税額控除(住宅ローン控除など)
(5)所得税額(基準)
↓ +復興特別所得税(×2.1%)
(6)最終納税額
住民税も基本ロジックは同じですが、給与所得控除・基礎控除の額が所得税と微妙に異なる点に注意が必要です(後述)。
給与所得控除の金額
2020 年以降の給与所得控除(国税庁 No.1410 より)。
| 給与収入 | 給与所得控除額 |
|---|---|
| 162.5 万円以下 | 55万円 |
| 162.5 万円超〜180 万円以下 | 収入×40% − 10万円 |
| 180 万円超〜360 万円以下 | 収入×30% + 8万円 |
| 360 万円超〜660 万円以下 | 収入×20% + 44万円 |
| 660 万円超〜850 万円以下 | 収入×10% + 110万円 |
| 850 万円超 | 195 万円(上限) |
「年収850万円の壁」:給与所得控除に上限が設けられているため、高所得者ほど課税所得に対する割合は増えていきます。「年収が増えても税金で持っていかれる」と感じやすくなるのはこのため。子育て世帯・要介護世帯には別途「所得金額調整控除」があり、最大15万円分が緩和されます。
所得税の累進課税の正しい理解
所得税は 「超過累進」 という方式で課税されます。これは「課税所得を税率ごとに階段状に区切り、各層ごとに該当する税率を掛けて合計する」しくみです。よくある誤解は「税率が上がる境目を超えた瞬間に税額が急増する」というもの。実際はそうなりません。
所得税率テーブル(2026年5月現在)
| 課税所得 | 税率 | 速算用控除額 |
|---|---|---|
| 1,000円〜194万9,000円 | 5% | 0円 |
| 195万円〜329万9,000円 | 10% | 97,500円 |
| 330万円〜694万9,000円 | 20% | 427,500円 |
| 695万円〜899万9,000円 | 23% | 636,000円 |
| 900万円〜1,799万9,000円 | 33% | 1,536,000円 |
| 1,800万円〜3,999万9,000円 | 40% | 2,796,000円 |
| 4,000万円以上 | 45% | 4,796,000円 |
速算式で簡単計算
所得税は 「課税所得 × 税率 − 速算控除額」 で一発計算できます。
所得税 = 4,000,000 × 20% − 427,500 = 372,500円
復興特別所得税(2.1%) = 372,500 × 0.021 ≒ 7,822円
合計 = 380,322円
「税率20%」と聞くと「収入の20%を取られる」と思いがちですが、上記の例では実質的な所得税率(400万円に対する割合)は約9.5%です。給与所得控除や所得控除を経た「課税所得」に税率がかかる点を見落とさないようにしましょう。
住民税のしくみと「1年遅れ」の罠
住民税は「所得割(10%)」+「均等割(標準5,000円)」で構成されます。所得割の計算ロジックは所得税とほぼ同じですが、いくつか重要な差異があります。
所得税と住民税の主な違い
| 項目 | 所得税 | 住民税 |
|---|---|---|
| 基礎控除 | 48万円 | 43万円 |
| 配偶者控除(一般) | 38万円 | 33万円 |
| 扶養控除(一般) | 38万円 | 33万円 |
| 扶養控除(特定) | 63万円 | 45万円 |
| 生命保険料控除(上限) | 12万円 | 7万円 |
| 計算対象 | その年の所得 | 前年の所得 |
| 非課税ライン(独身) | 給与収入103万円 | 給与収入100万円(自治体により異なる) |
「住民税の壁」が103万円ではなく100万円なのが落とし穴:所得税では給与収入103万円までは課税されません(給与所得控除55万+基礎控除48万)。一方、住民税の基礎控除は43万円のため、給与収入100万円(55万+45万)を超えると住民税の所得割が課税されます。「103万円ギリギリ働いたら住民税が来た」現象の正体です。
1年遅れの罠
住民税は「前年の所得」をベースに翌年6月から課税が始まります。これにより以下のような現象が起こります:
- 退職した年:前年所得が高ければ無職でも翌年に住民税が請求される
- 就職した1年目:前年は学生で所得ゼロのため、1年目は住民税ゼロ。2年目から急に住民税負担が始まる
- 育休中:休業前の年収に基づいて翌年も住民税が請求される
- 海外赴任で1月1日に日本にいない:その年は住民税の課税対象外(次年度)
退職予定者・転職予定者は、退職時に「翌年の住民税分」を別途用意しておくと安心です。
所得控除と税額控除の決定的な違い
多くの方が混同しがちですが、「所得控除」と「税額控除」は効果が大きく異なります。
所得控除(税率を掛ける前に引く)
課税所得を減らす控除。節税効果は 「控除額 × 所得税率」。
- 基礎控除(誰でも:48万円)
- 配偶者控除・配偶者特別控除
- 扶養控除(一般38万・特定63万・老人48〜58万)
- 社会保険料控除(給与天引き・国民年金・国民健康保険料の全額)
- 生命保険料控除・地震保険料控除
- 医療費控除(年10万円超または所得の5%超)
- iDeCo・小規模企業共済等掛金控除(全額)
- 寄附金控除(ふるさと納税含む)
税額控除(計算後の税額から直接引く)
計算された税額から直接差し引く控除。節税効果がそのまま満額に。
- 住宅ローン控除(最大年21万円×13年)
- 配当控除
- 外国税額控除
- 政党等寄附金特別控除(一部)
- 認定NPO法人・公益社団法人等寄附金特別控除(選択制)
所得税率 20%(課税所得 400 万円層)の方の場合
・所得控除10万円 → 節税効果 10万 × 20% = 20,000円
・税額控除10万円 → 節税効果 そのまま 100,000円
(税額控除は所得控除の5倍効きます)
「住宅ローン控除」「ふるさと納税」「医療費控除」など似たような節税策の中で、住宅ローン控除が圧倒的に効くと言われるのは、それが税額控除だからです。
源泉徴収票の読み方
毎年12月〜翌年1月に勤務先から配られる「源泉徴収票」は、自分の所得・税金が一覧できる重要書類です。読み方を覚えると確定申告・ローン審査・ふるさと納税の限度額計算がスムーズになります。
主要項目の意味
- 支払金額 ── いわゆる年収(額面)。給与・賞与の年間合計
- 給与所得控除後の金額 ── 給与所得控除を引いた後の「給与所得」
- 所得控除の額の合計額 ── 基礎・配偶者・扶養・社会保険料などの所得控除の総額
- 源泉徴収税額 ── 年末調整後の最終所得税(復興特別所得税込)
- 社会保険料等の金額 ── 健康保険・厚生年金・雇用保険・介護保険の年間合計
- 住宅借入金等特別控除の額 ── 住宅ローン控除(税額控除分)
「支払金額 − 源泉徴収税額 − 社会保険料等 − 住民税(別途)」が、おおよその年間手取りです。
給与所得者の実例:年収500万円のケース全計算
独身・東京都在住・他の所得控除なし・社会保険料は年収の14.3%(標準)の方が、年収500万円の場合を例に、所得税・住民税の計算をフル展開します。
① 給与所得控除
500万円 × 20% + 44万円 = 144万円
② 給与所得
500万円 − 144万円 = 356万円
③ 社会保険料
500万円 × 14.3% = 71.5万円(健康保険・厚生年金・雇用保険・介護保険の合計目安)
④ 所得税の課税所得
356万円 − 48万円(基礎控除)− 71.5万円(社会保険料控除)= 236.5万円(千円未満切捨て後 236.5万円)
⑤ 所得税
2,365,000 × 10% − 97,500 = 139,000円
復興特別所得税:139,000 × 0.021 ≒ 2,919円
所得税合計:約141,900円
⑥ 住民税の課税所得
356万円 − 43万円(基礎控除)− 71.5万円(社会保険料控除)= 241.5万円
⑦ 住民税
2,415,000 × 10% = 241,500円
均等割:5,000円
住民税合計:約246,500円
⑧ 最終的な手取り(額面500万円から)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年収(額面) | 5,000,000円 |
| 社会保険料 | −715,000円 |
| 所得税(復興税込) | −141,919円 |
| 住民税(翌年) | −246,500円 |
| 手取り | 約 3,896,581円 |
額面500万円に対し手取り約389.6万円、月平均で約32.5万円となります。社会保険料が約14%、税金(所得税+住民税)が約7.8%、合計21.7%が引かれる計算です。
よくある質問
年収が103万円を超えたら税金が大きく増える?
誤解です。103万円は「所得税ゼロのライン」で、超えた瞬間に大きな段差はありません。例えば年収105万円なら所得税は (1,050,000 − 550,000 − 480,000) × 5% = 1,000円程度です。住民税は100万円から始まる点に注意。
所得税の累進境目で「働き損」になる?
個人の所得税ではなりません(超過累進のため)。ただし配偶者控除や社会保険の被扶養者の境目(130万円・150万円など)には段差があり、家計全体では「働き損」現象が起こり得ます。
年末調整と確定申告の違いは?
年末調整は給与所得者を対象に、勤務先が代行する精算手続き。確定申告は本人が税務署に直接行う申告で、副業がある・医療費控除を受ける・住宅ローン控除の初年度・寄付金控除を受けたい場合に必要です。
「節税」の優先順位は?
個人の場合、(1) iDeCo・小規模企業共済(所得控除+将来資産形成)、(2) ふるさと納税(自己負担2,000円で返礼品)、(3) 医療費控除(年10万円超)、(4) 住宅ローン控除(税額控除で大効果)の順に検討するのが定石です。
確定申告を忘れた場合は?
還付申告(払いすぎた税金を取り戻す)は5年間さかのぼって申告可能です。一方、納税が必要な申告を期限後に行う場合は無申告加算税・延滞税が発生します。気付いた時点で速やかに対応しましょう。
参考資料・出典
- 国税庁 — No.2260 所得税の税率
- 国税庁 — No.1410 給与所得控除
- 国税庁 — No.1199 基礎控除
- 総務省 — 個人住民税
- 国税庁 — No.1180 扶養控除
- 国税庁 — No.2011 課税される所得と非課税所得
本記事は2026年5月20日時点の情報をもとに作成しています。税率・控除額は今後変更される可能性があります。最新情報は必ず公的機関の公表資料をご確認ください。