社会保険料 完全ガイド 2025|健康保険・厚生年金・雇用保険・介護保険の仕組みと料率
給与明細を見ると、所得税・住民税よりも大きな金額が「社会保険料」として引かれていることに気付きます。日本で会社員として働く人にとって、社会保険料は手取りを最も大きく削る要素です。本記事では、4つの社会保険(健康保険・厚生年金・雇用保険・介護保険)のしくみを一次資料に沿って整理し、料率・標準報酬月額・扶養の壁まで実例で解説します。
このページの目次
社会保険の全体像(4種類+労災保険)
「社会保険」と一括りにされますが、実は中身は5種類の制度に分かれています。給与から本人負担分が天引きされるのは前者4つです。
| 制度 | 本人負担あり | 保障内容 | 運営主体 |
|---|---|---|---|
| 健康保険 | あり(労使折半) | 医療費の3割負担・傷病手当金・出産手当金 | 協会けんぽ/組合健保/共済 |
| 厚生年金保険 | あり(労使折半) | 老齢・障害・遺族年金(2階建ての2階部分) | 日本年金機構 |
| 雇用保険 | あり(労使分担) | 失業給付・育休給付・教育訓練給付 | 厚生労働省・ハローワーク |
| 介護保険 | あり(40歳以上のみ) | 要介護認定後の介護サービス | 市区町村 |
| 労災保険 | なし(全額会社負担) | 業務・通勤による傷病の補償 | 厚生労働省 |
本人負担分は「労使折半」が原則ですが、雇用保険は労使で分担割合が異なります(後述)。会社負担分も含めると、月給に対しおおよそ 本人負担13〜15% + 会社負担15〜16% の保険料が国・自治体に納付されています。
健康保険のしくみと料率
健康保険は、病気・怪我で医療を受けたとき、医療費の自己負担を原則3割に抑えるための保険制度です。会社員は協会けんぽ(全国健康保険協会)または組合健保のいずれかに加入します。
協会けんぽの料率(2025年3月以降・東京都の例)
協会けんぽの保険料率は 都道府県ごとに異なります。一例として東京都の料率は次のとおり(2025年3月分以降適用):
| 区分 | 料率(合計) | 本人負担 | 会社負担 |
|---|---|---|---|
| 40歳未満(介護保険なし) | 9.91% | 4.955% | 4.955% |
| 40〜64歳(介護保険あり) | 11.50% | 5.75% | 5.75% |
料率の差は都道府県の医療給付実績によって決まります。長野県・新潟県など医療費が比較的少ない県は料率が低く、佐賀県・北海道など医療費が高い県は料率が高い傾向があります。
健康保険で受けられる主な給付
- 療養の給付:医療費の7割を保険が負担(自己負担3割)
- 高額療養費:1ヶ月の医療費自己負担が一定額を超えると差額を払い戻し
- 傷病手当金:病気・怪我で連続4日以上仕事を休んだとき、給与の約2/3を最長1年6ヶ月支給
- 出産手当金:産前6週間+産後8週間、給与の約2/3を支給
- 出産育児一時金:1児につき50万円(2023年4月以降)
厚生年金保険のしくみと料率
厚生年金は、会社員・公務員が加入する公的年金の2階部分です。1階部分の国民年金(基礎年金)と合わせて受給することで、自営業者よりも将来の年金額が大きくなります。
料率(2017年9月以降固定)
| 料率(合計) | 本人負担 | 会社負担 |
|---|---|---|
| 18.30% | 9.15% | 9.15% |
厚生年金保険料率は 2004 年から毎年0.354%ずつ段階的に引き上げられ、2017年9月の18.30%で打止め(固定)となっています。以後の引き上げは現時点で予定されていません。
厚生年金の主な給付
- 老齢厚生年金:原則65歳から受給開始。繰下げ最大75歳(増額42%)、繰上げ最大60歳(減額24%)
- 障害厚生年金:障害等級1〜3級の認定で受給
- 遺族厚生年金:被保険者死亡時、生計を共にしていた家族に支給
- 加給年金:65歳以下の配偶者がいる場合、年約40万円が加算
「厚生年金は払い損」と言われる理由:給与に応じて多く払うほど将来の受給額も増える「報酬比例制」ですが、現役世代の保険料が高齢者の年金原資になる「世代間扶養」のため、人口構造から見て若い世代ほど「払った額に対する将来受給額」の倍率が低くなる傾向があります。それでも国民年金の2倍以上の給付が見込めるため、自営業者よりは厚生年金加入者の方が有利な制度設計です。
雇用保険のしくみと料率
雇用保険は、失業時の生活保障や育休・教育訓練を支援する制度です。失業給付(基本手当)が最も知られていますが、近年は育休・介護休給付の比重が大きくなっています。
料率(2024年4月以降・一般の事業)
| 区分 | 合計 | 本人負担 | 会社負担 |
|---|---|---|---|
| 一般の事業 | 1.55% | 0.60% | 0.95% |
| 農林水産・清酒製造業 | 1.75% | 0.70% | 1.05% |
| 建設業 | 1.85% | 0.70% | 1.15% |
主な給付
- 基本手当(失業給付):自己都合の離職は2〜3ヶ月の待期後、給与の約50〜80%を最長360日
- 育児休業給付:休業開始から半年は給与の67%、それ以降50%(最大子1歳まで・延長最大2歳)
- 介護休業給付:家族介護のための休業時、給与の67%(最大93日)
- 教育訓練給付:指定講座の受講料を最大70%(年間56万円)給付
介護保険(40歳から開始)
介護保険は40歳の誕生月から保険料の徴収が始まります。健康保険料に上乗せして給与天引きされるため、40歳になった月の給与明細で「あれ、引かれる額が増えた」と気付くことが多い制度です。
| 区分 | 料率(協会けんぽ・2025年3月以降) | 本人負担 |
|---|---|---|
| 第2号被保険者(40〜64歳) | 1.59% | 0.795%(介護保険料率は40歳で発生) |
| 第1号被保険者(65歳以上) | 市区町村ごとに賦課・年金天引き | — |
標準報酬月額のしくみと「4〜6月の罠」
社会保険料は、給与に直接料率を掛けるのではなく、「標準報酬月額」という階段状の値を用いて計算されます。これにより毎月の保険料額が一定に保たれます。
定時決定(年1回)
毎年4・5・6月に支払われた給与の 平均を「報酬月額」として算出し、それに該当する標準報酬月額が9月から翌年8月までの保険料の基準になります。これを「定時決定」と呼びます。
平均報酬月額 = (320,000 + 300,000 + 380,000) ÷ 3 = 333,333円
→ 標準報酬月額 = 340,000円(22等級)
→ 9月以降の社会保険料はこの340,000円をベースに計算
「4〜6月の残業は損」の理由
定時決定の対象期間が4〜6月のため、この3ヶ月で残業が多いと、その年の標準報酬月額が高くなり、9月以降1年間の社会保険料が増えます。普段月10時間程度の残業の方が4〜6月だけ月50時間残業すると、年間で5〜10万円程度の余分な保険料が発生する ケースもあります。
随時改定(給与が大きく変わったとき)
給与が「2等級以上」変動して3ヶ月以上続いた場合は「随時改定」が行われ、4ヶ月目から新しい標準報酬月額が適用されます。昇給・降給・部署異動など賃金が大きく変わったときに発生します。
扶養の壁(106万・130万・150万円)
パート・アルバイトの方や配偶者が扶養に入っているケースで、必ず話題になるのが「年収の壁」。社会保険の壁は税金の壁と別物なので混同に注意です。
| 年収 | 名称 | 影響 |
|---|---|---|
| 100万円 | 住民税の壁 | 住民税所得割が発生(自治体による) |
| 103万円 | 所得税の壁 | 本人に所得税が発生(配偶者控除は150万まで継続) |
| 106万円 | 社会保険の壁① | 従業員51人以上・週20時間以上等の条件で本人が社保加入 |
| 130万円 | 社会保険の壁② | 勤務先規模に関わらず配偶者の扶養から外れる |
| 150万円 | 配偶者特別控除の満額の壁 | これを超えると配偶者特別控除が段階的に減少 |
| 201万円 | 配偶者特別控除の壁 | これを超えると配偶者特別控除がゼロに |
社会保険的に最も大きな段差は 130万円。これを超えると本人が国民健康保険+国民年金(または勤務先で社会保険)に加入することになり、約15〜20万円の年間負担が新たに発生します。よって「125万円稼ぐパート」と「135万円稼ぐパート」では、手取りで逆転することがあります(働き損問題)。
2024年10月から段階的に「106万円の壁」の対象企業が拡大されています。従業員51人以上の企業で週20時間以上勤務、月給88,000円以上、勤続2ヶ月超見込みの方は社会保険加入対象。今後さらに対象拡大が議論されています。最新状況は厚生労働省の短時間労働者の社会保険適用拡大のページで確認してください。
退職後の社会保険の選び方
会社を退職すると、健康保険・厚生年金は脱退し、新たな保険制度に切り替える必要があります。選択肢は次の3つ。
| 選択肢 | 保険料 | 手続き期限 | 有利なケース |
|---|---|---|---|
| ① 任意継続被保険者 | 在職時の約2倍(労使折半なし)。ただし上限あり | 退職から20日以内 | 扶養家族が多い/給与が高めだった方 |
| ② 国民健康保険+国民年金 | 前年所得ベースで決定(住んでいる市町村による) | 退職から14日以内 | 前年所得が少ない/在職時年収が低かった方 |
| ③ 家族(配偶者・親)の扶養に入る | 本人負担なし | 退職から5日以内(健保組合による) | 退職後の年収見込みが130万円未満 |
任意継続は「最長2年・原則保険料は固定」というメリットがある一方、毎月の保険料が在職時の約2倍になることもあります(労使折半が無くなるため)。国民健康保険は前年所得が少ないほど安く、退職翌年は意外と安く済むケースもあります。3つの選択肢を 退職前に試算しておく ことが重要です。
よくある質問
残業代も社会保険料の対象?
はい、残業手当・通勤手当(一部除外)・住宅手当・職務手当などほぼ全ての給与が対象です。逆に、賞与は別途「標準賞与額」として計算されます(年3回まで・1回150万円まで)。
退職金にも社会保険料はかかる?
退職金には社会保険料はかかりません。ただし退職所得控除を超えた部分には所得税・住民税が課税されます。詳しくは退職金にかかる税金ガイドをご覧ください。
育休中に社会保険料は払う?
育児休業期間中(最大子3歳まで)は、本人・会社ともに健康保険料・厚生年金保険料が免除されます。雇用保険料はそもそも給与(賃金)がなければ発生しません。免除期間も年金加入歴としてカウントされる、子育て世帯への大きな優遇制度です。
2か所以上で働いている場合は?
主たる勤務先で社会保険に加入し、他の勤務先の収入は標準報酬月額の算定に算入されません(一定の所得未満の場合)。両方で社会保険加入義務がある場合は「健康保険・厚生年金保険被保険者所属選択届」が必要になります。
外国人も社会保険に入る?
原則、日本で雇用されている外国人も日本人と同じく社会保険加入義務があります。母国と社会保障協定がある国(米国・ドイツ・韓国など23カ国)の場合は、二重加入回避のしくみがあります(5年以内の短期駐在は母国側のみ)。
参考資料・出典
本記事は2026年5月20日時点の情報をもとに作成しています。料率・制度は今後変更される可能性があります。最新情報は必ず公的機関の公表資料をご確認ください。