退職金にかかる税金ガイド|退職所得控除のしくみと「勤続20年の壁」を実例で解説

公開日:2026年5月20日 / 最終更新:2026年5月20日 / 執筆:クラブトップ編集部

「退職金は税金が優遇されている」とよく聞きますが、その実態は、勤続20年を境に控除額が大幅に増える 「勤続20年の壁」、控除後を半分にして課税する 「1/2課税」、他の所得と合算しない 「分離課税」 という3つの大きな優遇で成り立っています。本記事では、退職金の課税のしくみを、勤続年数別の実例計算で深掘りします。

このページの目次

  1. 退職金にかかる税金の全体像
  2. 退職所得控除のしくみと「勤続20年の壁」
  3. 1/2課税と分離課税
  4. 勤続年数別シミュレーション
  5. 「退職所得の受給に関する申告書」の重要性
  6. 一時金 vs 年金受取の比較
  7. iDeCoと退職金の「5年ルール・19年ルール」
  8. よくある質問

退職金にかかる税金の全体像

退職金は「退職所得」という独立した所得区分として、給与所得などとは別に課税されます。基本的な計算式は次のとおり(国税庁 No.1420 より)。

退職所得 =(収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2
所得税 = 退職所得 × 所得税率 − 速算控除額
住民税 = 退職所得 × 10%

ここに登場する 退職所得控除1/2課税 が退職金の税負担を大幅に軽くする2大優遇です。勤続5年以下の役員退職金など一部例外で1/2課税が適用されないケースもあります。

退職所得控除のしくみと「勤続20年の壁」

退職所得控除は、退職金から差し引ける非課税枠です。勤続20年を境に、1年あたりの控除額が大きく変わります。

勤続年数退職所得控除額
2年未満80万円(最低保障)
2〜20年40万円 × 勤続年数
20年超800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

勤続年数は1年未満の端数を切り上げます(5年1ヶ月=6年)。

勤続年数別の控除額シミュレーション

勤続年数退職所得控除額1年あたり平均控除額
5年200万円40万円
10年400万円40万円
15年600万円40万円
20年800万円40万円
25年1,150万円46万円
30年1,500万円50万円
35年1,850万円53万円
40年2,200万円55万円

勤続20年超は1年あたりの控除額が70万円(20年以下の40万円の1.75倍)となり、長く勤続するほど指数関数的に控除額が大きくなります。これが「定年まで勤めた方が税負担で圧倒的に有利」と言われる理由です。

例:勤続30年で退職金 1,500 万円の場合
退職所得控除 = 800万 + 70万×(30−20) = 1,500万円
退職所得 = (1,500万 − 1,500万) × 1/2 = 0円
所得税・住民税 = 0円
→ 1,500 万円が 全額非課税 で手取りに

1/2課税と分離課税

退職金には、退職所得控除の他に2つの大きな優遇があります。

① 1/2課税

退職所得控除を差し引いた後の金額をさらに 1/2 にしてから税率を掛けます。これにより、税負担はさらに約半分に。ただし、勤続5年以下の 役員等(短期退職手当等)には1/2課税が原則適用されません。また、勤続5年以下の従業員でも、控除後300万円を超える部分には1/2課税が適用されない仕組みです(2022年改正)。

② 分離課税

退職所得は、給与所得や事業所得など他の所得と 合算されません。これを「分離課税」と呼びます。給与所得と合算されると累進税率が一気に上がってしまう問題を避ける重要な優遇です。

なぜ退職金が優遇されているか:退職金は「長年の労働の対価が一時に支給される所得」であり、毎年に分散したら累進税率が上がらなかったはずです。そこで、(A)長期分散の代替=退職所得控除、(B)実質的な期間配分=1/2課税、(C)他所得との累進ジャンプ防止=分離課税、という3つの仕組みで「公平性」を担保しています。

勤続年数別シミュレーション

退職金額1,500万円・1,800万円・2,500万円のケースを、勤続15年・25年・35年で比較します(独身・他の所得との合算なし・東京都在住の概算)。

パターンA:退職金1,500万円

勤続年数退職所得控除退職所得所得税住民税手取り
15年600万円450万円約47.5万円45万円約1,407万円
25年1,150万円175万円約8.9万円17.5万円約1,473万円
35年1,850万円0円0円0円1,500万円

パターンB:退職金2,500万円

勤続年数退職所得控除退職所得所得税住民税手取り
15年600万円950万円約177万円95万円約2,228万円
25年1,150万円675万円約97万円67.5万円約2,335万円
35年1,850万円325万円約23.5万円32.5万円約2,444万円

同じ2,500万円の退職金でも、勤続35年と15年で 手取りに約216万円の差 が生じます。長く勤続するほど税負担が小さくなる典型例です。

あなたの退職金の手取りを試算

勤続年数・月給・退職事由から、税金を引いた手取り退職金を計算します。

退職金計算機を使う →

「退職所得の受給に関する申告書」の重要性

退職時に勤務先から「退職所得の受給に関する申告書」という書類を渡されます。この紙を 退職前に 勤務先に提出すれば、ここまで説明した退職所得控除・1/2課税・分離課税が源泉徴収段階で適用され、確定申告は不要になります。

逆に、この申告書を 提出しないと、退職金から一律 20.42%(所得税20%+復興税0.42%) が源泉徴収されてしまいます。

例:勤続30年で退職金 1,500 万円の場合
(申告書提出あり):源泉徴収税 = 0円(退職所得0円)
(申告書なし):源泉徴収税 = 1,500万 × 20.42% = 約306万円 仮徴収
→ 確定申告すれば全額還付されますが、しばらく306万円が手元から消えます。

退職金が振り込まれる前に必ず申告書を提出しましょう。万一提出を忘れた場合は、退職した翌年の確定申告(2月16日〜3月15日)で還付申告すれば取り戻せます。

一時金 vs 年金受取の比較

確定給付企業年金(DB)・確定拠出年金(DC)・厚生年金基金など、企業年金制度がある場合、退職金を 一時金で受け取る年金で受け取る かを選べることが多くあります。それぞれの税制扱いを比べます。

受取方法所得区分控除課税
一時金で受取退職所得退職所得控除1/2課税+分離課税
年金で受取雑所得(公的年金等)公的年金等控除他の所得と合算(総合課税)

判断の目安

多くの場合は「一部を一時金・残りを年金」というハイブリッド受取が選べます。退職予定の数年前から、勤務先の人事部門に問い合わせて受取オプションを確認するのが賢明です。

iDeCoと退職金の「5年ルール・19年ルール」

iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型確定拠出年金(企業型DC)の一時金受取にも退職所得控除が適用されます。ただし、同じ年または近い年に会社退職金と iDeCo を両方一時金で受け取ると 退職所得控除の枠を合算してから課税 される仕組みがあるため、注意が必要です。

5年ルール(iDeCoを先に受け取る場合)

iDeCo を受け取り、その 5年後以降 に会社退職金を受け取れば、退職所得控除を再度フルに使えます。早期退職を選んで先にiDeCoを受け取り、5年後に会社退職金を受け取る、というケースで有効です。

19年ルール(会社退職金を先に受け取る場合)

会社退職金を受け取り、その 20年後以降(=改正前は「14年後以降」だったが、2026年以降は「20年後以降」に厳格化)に iDeCo を受け取れば、退職所得控除を再度フルに使えます。2026年以降の改正で従来より厳しくなっており、定年後の iDeCo 一時金受取は税制上の最適化が難しくなっています。

2026年税制改正の方向性:退職金とiDeCoの一体的な税制改革が議論されており、5年ルール・19年ルール(事実上「20年ルール」化)が変動する可能性があります。直近で iDeCo・退職金の受取を検討中の方は、ファイナンシャルプランナーや税理士への相談を強く推奨します。

よくある質問

退職金は社会保険料の対象?

退職金には健康保険料・厚生年金保険料はかかりません。社会保険料は給与・賞与のみが対象です。

役員の退職金は普通の従業員と税制が違う?

はい。勤続5年以下の役員退職金(短期退職手当等)は1/2課税が原則適用されません。長期勤続の役員退職金は通常の退職金と同じ計算式です。

退職金の代わりに「企業年金」が支給される場合は?

確定給付企業年金・確定拠出年金・厚生年金基金などは、一時金で受け取れば退職所得、年金で受け取れば雑所得(公的年金等控除あり)になります。受取方法を選択できる場合が多く、税負担への影響が大きいので慎重に。

退職金を受け取る年は何月退職がベスト?

退職金の支給は退職した年の所得として扱われるため、退職時期そのものは控除額に大きく影響しません。ただし、定年年齢を満たす月を超えてから退職することで勤続年数が1年加算されるケースがあるため、誕生月との関係は確認しましょう。

退職金が予定より少なくなった場合の対応は?

会社の退職金規程に基づいて支給されるため、ガッカリしないように事前に「自社の退職金規程」を確認するのが鉄則です。中小企業退職金共済(中退共)に加入している会社の場合は別途中退共から給付があります。

参考資料・出典

本記事は2026年5月20日時点の情報をもとに作成しています。税制は今後変更される可能性があります。最新情報は必ず公的機関の公表資料をご確認ください。